空の屋根に座って

感動は、残しておきたい。

【感想】検屍官

 ブログを立ち上げてみたはいいものの、感想を書ける気がしない……。

 せっかく読み終わった本があるのに(o´_`o)

 でも、3日坊主にするのも癪なので、とりあえず過去に書いた感想を掘り出してきました。

 パトリシア・コーンウェルさんの小説『検屍官』です。

 数年前に読んだ作品ですが、犯人も展開も覚えていなかったため(笑)再読しました。主人公のケイが最後のほうで犯人に襲われた記憶はあったのに、どうして肝心の犯人を忘れてしまったのでしょう。

 話が退屈だったから、というわけではありません。じつはこの犯人、ケイを襲うまで一切名前の出てこなかったモブだったのです。正体が明らかになったあとでさえ、名前は作中にほぼ出てきません。文体が主人公の一人称形式で、襲われた直後のショックがそうさせたのかもしれませんが(名前を出すのもおぞましい的な)、印象に残らなかったのはそういった理由なのかもしれません。

 ミステリを読むとき、少なからず読者は探偵になっているんだと思います。ルビのついた文に気をとられたり、登場人物の動作に辻褄が合っているか確認したり、「こいつが犯人か?」と片っ端から疑ってかかる人も多いのではないでしょうか。「作者はセンセーショナルに種明かしをして読者をあっと言わせたいに違いない」と勘繰って、味方サイドの人間が犯人なのではと妄想することもあるかもしれません。

 けれどもこの作品では、犯人はモブなのです(二度目)。もちろん、本をめくって最初に目にする「登場人物一覧」の中にいるわけもありません。舞台に役者を揃えているのに、最後の最後で「誰だお前?」みたいなやつが最も強烈にスポットを浴びているんです。これを書いてる今でさえ、もう名前を忘れてます。そのくらいの存在感なんです。

 物語の前半、身近に犯人がいると持論を展開する刑事マリーノに対し、ケイは

「現実には殺人なんてたいていがっかりするほど単純なものだわ。(中略)被害者とは面識のない犯人が、いきあたりばったりにやった犯行だわ」(106ページ抜粋)

 とコメントしています。ややもすれば、読者はミステリ小説にドラマを求めがちで、刑事、身内、同僚なんかが犯人であることを期待している節があります。その裏をかくような、けれど同類にのみわかる程度に香るように(ちなみに私は見逃してしまった)手掛かりを垂らしてあるんです。たしかに伏線ひとつもなかったら、意外性はあっても「それアリかよ~」って不満にしかならないですからね。お見事でした。

 シリーズものなうえ、少々長め。しかも途中に難解なプログラミング用語がでてきて置いてきぼり感を食らったりもしますが、読みごたえのある作品です。がっつりミステリを楽しみたい! って方には良いのではないでしょうか。