空の屋根に座って

感動は、残しておきたい。

【感想】黒執事

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 黒執事の15周年記念でコミックス30巻まで読みました。公式太っ腹すぎる……。
 私はアニメしか知らなかったのですが、原作はこんな面白いことになってるんですね。ビジュアルがとにかく綺麗な作品なので、ストーリーはおまけくらいに思ってたのですが(超失礼)ビックリするほど伏線が秀逸。

 じつは以前ネットでネタバレ記事を読んでいたので、シエルの過去は知っていたんですけど、それでも既知なりの楽しみ方ができました。初見だったら完全スルーしてたシーンが多かったなぁ、って。枢先生の練り込み力が凄まじいんでしょうね。19世紀英国の雰囲気は保ちつつ、現代のエンタメをオマージュしているのも楽しかったです。

 読了してから興奮冷めやらず、勢いで夢小説探してしまったんですけど(笑)ジャンルの規模がそれほど大きくなくて「馬鹿な……!」と頭を抱えています……。みんなどこに隠れているんや……(必死)たぶん書かないけど、お相手シエルの両片思い設定を考えてしまうくらいには黒執事好きになりました。

 色んな電子書籍でキャンペーンやってたみたいなので、これを機にまた改めて盛り上がるといいですね。私も新刊出たら買いたい。

【感想】現金強奪作戦!(但し現地集合)

 明けましておめでとうございます。昨年に訪れてくださった方も、今年はじめて来てくださった方も、ありがとうございました。昨年はすべての方々にとって大変な一年となりましたが、今年こそ明るいニュースが聞けるといいですよね。2021年も当ブログをよろしくお願いいたします。

 自粛期間中に読書をしようと思ったのですが、集中力と想像力が足りなくて、気づくと文字を追ってるだけになります……。当然、内容なんて頭に入りません。なので、最近は短編集を読むようにしています。

 今回の感想は、倉知淳さんの『シュークリームパニック』に収録されている『現金強奪作戦!(但し現地集合)』です。タイトルが個性的ですよね。ただし、オチをネタバレすると最高につまんなくなるので注意。


 主人公は家賃が払えず取り立てに喘ぐ青年「サトウ」。物語は、そのサトウが後楽園のウインズでハズレ馬券を拾い集めているところから始まります。なんでそんなことをしているかっていうと、もしかしたらその中に当たり馬券が混じっているかもしれないから。そんな有るかも分からないものを頼りにしなければいけないほど、主人公はジリ貧でした。

 そこへ声をかけてきたのが「サクラダ」という一人のオッサン。
「兄ちゃん、金、欲しいないか?」
 見ず知らずの人間から出し抜けに尋ねられて、怪しさがハンパないです。絶対ヤバイ仕事だ、と思いつつもサトウはジリ貧。話を聞いてしまいます。

 ちなみに持ち掛けられた話は銀行強盗だったんですけど、追い詰められていく人間の心理が短いながらも順序だてて描かれていて、強盗が悪いことだって分かってはいるけど、それでも主人公には同情してしまう。ドン底にいる人間に甘い話をしてはいけません。1000%乗っかってしまう……。

 ただ、すごい暗い話かというとそうでもなくて、滑稽な表現が多いです。ギャグミステリといった感じ。
 たとえば、主人公は高校卒業後に上京して仕事に就いたらしいのですがそのときの経験を語ったのが以下。
「焼きあがったメロンパンがベルトコンベアで流れて来るので、それをトングで挟んでひっくり返す。ただただひたすら、ひっくり返す。メロンパンが流れて来る。それをひっくり返す。メロンパンが流れて来る。それをひっくり返す。一日九時間、延々とそれを繰り返す。メロンパンが流れて来る。それをひっくり返す。人間的な感情が、耳の穴から流れ落ちていくのを感じた。たまの休みのパチンコや競馬が、唯一の楽しみだった。そして休み明けには、メロンパンをひっくり返す。メロンパンが流れて来る。それをひっくり返す。おかげで今もってメロンパンが食えない。あの甘い匂いを嗅いだだけで気が狂いそうになる」
 こんなにメロンパンって書くことないよね……(笑)ダメ押しで、
「特技といえば、メロンパンをひっくり返すことくらい」
 と自虐も忘れません。

 この話の山場は何といっても銀行強盗当日。
 サトウはいわれたとおり、ターゲットにしている銀行に客を装って入店します。迎えた決行時刻。目出し帽を被った仲間が「動くなっ、おとなしくしろ!」とお決まりのセリフで行内にいる人を黙らせます。
 主人公も拳銃(モデルガン)を高々と見せつけるように掲げて威嚇。けれども、仲間はいつまでもその場を動きません。立ち尽くしています。なんか事前に聞いていた段取りと違うんだけど……!

「おいおい、何やってるんだ、僕の役目はあんたを補佐して金を運び出すことなんだぞ。あんたが動いてくれないと、こっちも何もしようがないじゃないか」

 胸中では焦りまくっている主人公。それでも他の目出し帽たちは微動だにしません。

「人質の皆さんも、手を挙げたまま止まっている。指示も命令もないので、困惑し始めているのがありありと判る。表情も、当初の驚きや恐怖が薄れ、きょとんとした顔つきになってきた。『えーと、どうしたらいんでしょうか、私達は。何かした方がいいんじゃないでしょうか』とでも云いたげである」

 この皆が皆、「今の時間、何?」状態なのが面白いです。その空気を見事に表現できているところも素晴らしいし、それまでの軌跡からは想像もつかないような展開であることも意表を突かれました。

 じつは持ち掛けられた銀行強盗は、別の場所で銀行強盗を成功させるための囮だったわけです。イヤーやられた。ちなみに一緒にいた仲間と思っていた目出し帽たちは、サトウと同じくサクラダに話を持ち掛けられた哀れな子羊。本物のサクラダは別の銀行を襲撃してちゃっかり逃げ遂せていたのでした。これぞ現地集合が招いた悲劇……。

 じつは今回読むのは二度目でして、やっぱり一度目ほどの驚きはないものの、時間が経っても印象強く残っている作品です。この本には六編収録されているけど、私はこれが一番面白かったです。

【感想】「悩みグセ」をやめる9つの習慣

 会社員の頃に買った本です。タイトルから分かるように、悩みグセに悩んでたんでしょうね。
 そして、今この本を手に取っているのも、また悩みグセに悩んでいるからにほかなりません。
 改めて読んでみて「なるほどな」と納得したこと、「こういう見方もあるのでは?」と疑問に思ったことを自分なりに書いてみます。

できないことは後回し

 焦ってる人ほど「心理的視野狭窄」を起こしやすいです。
 心理的視野狭窄とは、人は焦っているときほど冷静に物事を見られないということ。

 この本では「10分探して見つからないものは、1時間探しても見つからない」と言い切っています。
 家の鍵とか、眼鏡とか、スマホとか……。たしかに部屋の中を探しても見つからないときありますよね。
 そして、しばらく経ってから「こんなとこに……!?」って意外な場所で見つかるんですよ、悔しい。
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 私の場合、転職活動のサイトを延々と見たりするのも、心理的視野狭窄が働いているのかもしれません。
 もちろん就職先を10分で決めろ、という話ではありませんが、「寝かしてみるのも手」だったりするのかも。

欧米のほうが日本よりも本音を言えない文化

 じつは日本よりも欧米のほうがハッキリと物事を言えない風潮があるのだとか。
 一見、信じがたい話ですよね。
 だって、トランプ前大統領なんてあけすけに発言するじゃないですか。
 ほかにも、海外の俳優さんのほうが発信力が高いイメージがありますし。

 けれども、一般人レベルでいうと、白黒ハッキリ言える人は少ない、というのが本書の主張です。
 どうしてハッキリ言えない文化があるかというと、考えられる要因のひとつが訴訟社会。
 口が滑ったことで慰謝料が莫大になりうる欧米では、たとえ夫婦間でも気を許せなくなってしまうことも……。
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 だからこそ、欧米では「ホームドクター」をつけるのが一般的らしいです。
 心がしんどいとき、風邪を引いたときと同じように病院へ行く。受診の垣根が日本よりも低いのです。
 日本だと、精神科や心療内科に通っているというだけで、深刻な空気になりますよね。
 どちらがいい、という話ではないけれど、国が変われば抱える悩みも違うんだなと思います。

決めつけをなくす

コレステロールがちょい高めのほうが長生き
地球温暖化の原因は必ずしも二酸化炭素ではない
 あなたは、これを聞いて「絶対違う」と思いますか?
 それとも「可能性はあるかも」と思いますか?
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 強く信じている人とそうでない人では、話が衝突しそうですよね。
 最初から決めつけてかかると、分かり合えたはずの人と分かり合えなくなってしまうというのが筆者の主張です。

 まぁ、何でも疑ってかかれとか、全部鵜呑みにしろとかではないけれど、「これしか認めない」という考えよりは「違う意見も受け入れられる」ゆとりがあったほうが、人間関係は上手くいきそうです。

感情が認知を歪める

 私は自他共に認める卑屈野郎なので、自己肯定感が低いと誉め言葉も素直に受け取れません。
 「それ絶対思ってないよね?」とか「あてつけなのでは?」と勘ぐってしまいます。

 この本で出された例として、「朝、出勤したら上司に会議室へ来るよう言われた」という場面があります。
 そのとき、あなたはどんなことを想像しますか?
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 私は100パー「ヤッベー、なんかやらかした!」と想像します。
 ところが、これこそ認知の歪み
 なぜなら「会議室へ来るように」としか言われてないのに、妄想だけが先走っているからです。

 やましいことがなければ、構える必要はありません。
 今回は極端な例ですけど、マイナス寄りの妄想ばかりが浮かぶときはお疲れなのかもしれません。
 そして私は、マイナス寄りの妄想しかできないので、疲れを通り越して麻痺しているのかもしれない……。

用心深い人ほど騙される

 疑り深い人はなかなか心を開きません。
 だからこそ、幾重もの「疑りフィルター」を通して選ばれた(?)人を信頼します。
 妄信、といったほうが近いかもしれません。
 それゆえ「〇〇の言うことだから」と騙されてしまうのです。

 私も他人と打ち解けられないタイプですが、そのなかでも打ち解けられた人には安心感から騙されてしまうかも。
 最近は「この人に騙されたら、もう諦める」くらいの境地でいます。

ほどよい距離がかえって上手くいく

 親しいことは正義に思えるけれど、近づきすぎないことも同じくらい重要です。
 家族だから、友達だから、何でも許されるというわけではありません。
 言われたくないこと、聞かれたくないことの一つや二つあるでしょう。
 ほぼ初対面の人に「年収は?」「結婚してるの?」「子どもはいるの?」などプライベート聞く人はいませんよね。
 たぶん、もっと無難な話題から入ると思うのです。天気とか。食べ物とか。
 上辺だけの会話で親しみがない、と思う人もいるかもしれませんが、それでもいいのです。
 近づきすぎると心の距離はかえって開いてしまいます。

満点をとれる厚かまし

 見た瞬間、ギクッとしました。「完璧がお前ごときにできると思うなよ」と言われた気分……。
 すごい人って周りにいますよね。長時間仕事して、家事もして、育児もして、パートナーや周囲の人をきちんと労うような……。
 今は働きながら子育てが当たり前、みたいに言われていますけど、私からすればその生き方が「完璧」に見えます。
 そんな人たちが、とんでもなくすごい芸当をしているように思えるのです。
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 「でも、みんなやってるし、私も目指さなくては……!
 白状すれば、今でもそう思っています。 
 なんか、みんなやってるから私にもできるみたいに思ってる気がするんです。
 私にも満点が取れるような気になってくるんです。
 でも、それって幻想なんですよね。そもそも「みんな」って誰のことを指してるんですかね。
 自分の能力をきちんと把握できてないんだなって思いました。結論「満点は無理」

謙譲も過ぎると毒

 「駄文ですが、よろしくお願いします
 よく、WEB小説の紹介に載ってますよね。こう書きたくなる気持ち、分かります。
 けど、その自信のなさが誰かを不快にしていることもあるんです。
 駄文と書いた小説が読者からすると非常によかったとき、自分が書いた小説に比べて語彙力があったとき、「この人が“駄文”といってる話をいいと思ってる私は何?」現象が起きます。
 といっても難しいところで、自信満々を主張されても鼻につく感じがしてしまうものですが、言葉にして言う卑下はほどほどが吉です。

期待されれば人は伸びる

 これを「ピグマリオン効果」といいます。ケチョンケチョンに言われるよりは、期待されたほうがモチベーションもあがるかもしれません。
 今季ベイスターズの主将を務めた佐野選手は、この最たる例なのかも……?(もちろん、ずっと頑張ってきた成果が今年になって実を結んだのだと思いますが)

 私は、期待されるとプレッシャーになってしまうタイプです。
 だって、褒められることが「報酬」になると、褒められなかったときが無力感でいっぱいになるから。
 本に異を唱えるような書き方になりますけど、「褒められること」や「周囲の期待」はあくまで副産物ぐらいにとらえたほうがよさそうです。
 褒めてくれる人が必ずしも近くにいるとは限らないですし、いても貰えるものとは限らないです。
 期待されていたとしても、その期待は時間が経てばどんどんレベルを上げられてしまいます。欲望と一緒で際限がありません。

錯覚による期待外れ

 テストで95点取ったA君、60点だったB君。
 A君は褒められ、B君は叱られました。

 次のテストで、A君は80点、B君は70点。
 A君は「油断したのね?」と責められ、B君は「よく頑張ったわね」と褒められました。

 めでたしめでたし。
 では全然ないですよね。

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おかしいにゃん

 これらは一見、本人たちの努力の度合いを表しているように思いますが、そうではありません。
 初回のテスト。満点までA君は5点、B君は40点の差があります。
 言い換えれば、A君は5点しか伸びしろがないということ。
 そう言われると、A君が次回のテストで前回を上回るのは大変そうですよね。

 けれど、条件を無視して、次回も同じ水準を求めてしまうから期待外れを引き起こしてしまうのです。

 私にも似た経験があります。
 先日、私はMOSというエクセルの資格を取りました。
 もっと他の機能も知りたくて、その資格の上級コースを現在勉強中です。

 しかし、合格直後は意気揚々と勉強できていたのに、今はなぜかそのペースが上がらないのです。
 普段から怠け癖があるので、自分の性格のせいだと自己嫌悪したりもしました。

 けれど、ペースがあがらないのは当たり前。だって、今やってる勉強は「上級」コースなのだから。
 そう思いついたときハッとしました。知らない情報が以前より格段に多い試験に対して、前と同じペースでできるわけがなかったと。

 それからはその日に進んだページ数も気にしないようにしています。

複眼思考

 内容としては、前述の「決めつけをなくす」に近いかもしれません。
 物事にはさまざまな面があります。それを意識できるかどうかが重要です。
 白黒決めたがる人、早く結論を出さないと気持ちが悪い人は、この複眼思考を気にしてみるといいかもしれません。
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 ちなみに、この「早く結論を出さないと気持ちが悪い人」って、せっかちな人が多いんでしょうかね。
 私はメールも早く返さないと落ち着かないし、必要な提出書類があればすぐに準備したいタイプなのですが、こういう人は白黒二分割思考に陥りやすいのかもしれませんね……。

 ほかにも、私は長く体調が悪いとき、「全快でないという状態」に鬱々としてきます。その際、「全快」と「不健康」くらいの分け方をしていたように思います。
 たぶんこれを複眼思考で考えるなら、「絶好調」「好調」「まぁまぁ」「可もなく不可もなく」「ちょっと調子悪い」「あんまり元気ない」「不健康」「軽症」「重症」とかグラデーションになるんでしょうね。
 そして、「あんまり元気ない」だとしても「これをやってるときは元気」「夜になるとつらい」とかもっと細分化できるはず。
 「良い」と「悪い」の二択は分かりやすいけれど、それだけが答えではないのです。

まとめ

 今の自分の状況に置き換えながら読むと、いろいろ発見がありました。
 ただ、タイトルに「習慣」とあることから、本書の実践を習慣化していかなければ、私のように何年たっても「悩みグセ」に悩まされてしまいます。
 きっと、この記事を書いて数年後も、大して変わらぬ価値観で生活しているかもしれません。
 それでも、立ち止まったときに読み返して「ああ、そうだったそうだった」と補正していきながら読むのもアリな気がしています。

【感想】漫画LIAR GAME

 以前、無料アプリ漫画BANG!で配信されていました。読んでみたところ凄く良かったです。久々にストライクゾーンに来ました。


 まず、この作品に魅かれた最大の理由は「秋山さんがカッコよかったから!」これに尽きます。
 頭がよく、弁が立ち、クールだけど、時折やさしい。なんかもう、いろいろ揃ってたんですよね(語彙力死亡)
 しかも、完璧に見えて脆い部分があったりするギャップ。これがまたたまらんのです。
 天才ってだけだと、「尊い」で終わっちゃうし、近づける何かがないと、親しみは湧いてこないのかもしれません。

 そして、秋山さんの魅力を最大限に引き出してくれるのが、主人公の直ちゃん。
 序盤は非力な少女って感じで、秋山さんにおんぶにだっこ状態でした。
 それがまた「姫と騎士」の構図になってくれて、私的にはおいしかったのですが、彼女はライアーゲームが進んでいくにつれて強く成長していくので、途中から秋山さんがあんまり構ってくれなくなります。
 話しかけてもプイってするし、すごい心細かった。もっと絡んで! って何度思ったことか(感情移入過多)

 けれども、直ちゃんの成長がなければ、ライバルポジションとして登場してきたヨコヤさんに言い返すことも、そのあと秋山さんが本音を吐露するシーンもなかったので、彼女の成長は必要なことだったのだと納得しています。
 何より、弱い主人公が弱いまま終わったら、それはそれで物語としてどうなのってなっちゃいますしね。一応、ジャンプの作品だし。

 そんなこんなで最後まで読み終わり、さっそく支部で関連作品探しに移るわけですが、やっぱり秋直クラスタが優勢でした。
 原作の二人は付き合ってない設定ですけど、これだけくっつきそうな要素を散りばめられたらそうなりますわ。
 私も秋山さんカッコいいと思うけど(珍しく)夢の発想にはならなかったし。
 というのも、あまりに秋直がいいコンビだったんですよね。あと、単純に夢小説作品がほぼない。
 そのせいで私、最終的にヨコヤさんに目覚めてしまいました。まさかのネズミですよ、ほんと信じられない(笑)
 きっと原作の最後に出てきた過去シーンがいけなかった。あれで全て持ってかれた感ある。
 悪役の生い立ちを終盤で明かすって凄い効果的ですね。さすがは甲斐谷先生。

【感想】はなとゆめ

 「天地明察」の作者、冲方丁さんの小説です。
 映画の天地明察がおもしろかったこともあり、同作家さんが書かれた「はなとゆめ」を手に取りました。
 じつは、人生で初めて読む歴史フィクションだったりします。

 歴史に明るくない私が読んでも大丈夫だろうかと思いましたが、読んでみてビックリするぐらい平気でした。
 「鳴くよウグイス平安京」しか知らなくても(なんなら、それすら知らなくても)ノープロブレムです。
 かといって史実を軽んじているわけでは決してなく、まるでその時代を見てきたかのように細かく再現されているので、知識がある人なら一層おもしろく感じられることでしょう。

 さて、本作は枕草子の作者でおなじみ清少納言が主人公です。
 地の文はですます調で、清少納言追想というかたちで語られていきます。
 それだけに情景描写が恐ろしく優れていて、さすがは「春はあけぼの~」の作者といった感じです。
 清少納言は、一条帝の后である中宮定子に仕える女房です。最初の頃、その性格はすごくシャイでした。
 見た目に自信のない彼女は、昼間は人目を嫌い、夜にしぶしぶ主のもとへ参上するという引きこもりっぷりです。
 そして、その様を定子に「葛城の神(醜い見た目を気にして夜にしか出没しない神様)」とからかわれる始末。
 でも個人的には、いつでも堂々としているより、ちょっと弱気なキャラクターのほうが親近感が湧きます。

 そんな清少納言を、主である定子は呆れるどころか面白がって、いたく気に入りました。
 なかでも私が印象に残っているシーンは、清少納言の名を初めて呼んだときです。
 この時代『女房の呼び名は、父兄や夫の官職がもとになるのが常』で、清少納言も初めは父親の赴任先にちなんで「肥後のおもと」と呼ばれていました。
 しかし、あるとき定子は皆の前でこう言うのです。「清少納言」と、凛とした声で。
 位階は、肥後のおもと < 清少納言 ですので、定子が名を呼んだ瞬間を境に、清少納言はランクアップしたわけです。まさに鶴の一声。
 現代ではちょっと考えられないですよね。
 これには清少納言も『人の運命を変えることのできる力。たった一言、その名を呼ばれただけで、わたしは不安を覚えながらも、気づけば痺れるような驚きと喜びに打たれていました』と当時を振り返っています。

 そして、徐々に緊張がほぐれていった清少納言は、持ち前の暗記力と機転を武器に本領を発揮していきます。
 そんな折、尊敬してやまない定子から賜った上等な紙。のちに、名作枕草子を書くことになる紙です。
 貰った当初は恐れおののくばかりで何も書けませんでしたが、長い里下がりをきっかけに執筆を開始します。
 『紙の上では、わたしは自由でした』と述べた清少納言
 これって物書きにひとしく通じる言葉ではないでしょうか。
 父親が名うての歌人である清少納言は、日頃から優れたものを書かないといけないプレッシャーを感じていました。
 けれど、宮中から離れた実家であの紙を前にしたとき、彼女は真に周りの目を気にすることなく、好きなように筆を動かせたのです。
 読んでいた私も意外なところで「物を書くのに、肩肘を張る必要はないんですよ」と言われた気分。

 そうして何枚か書き終わった紙ですが、ある日のこと、実家を訪ねてきた右中将、源経房に「ちょっと借りるね~」くらいの軽いノリで持ってかれてしまいます。
 体裁を整えておらず、清書もしていない文章でしたので、清少納言も『まさか、あのまま中宮様にお渡しすることはあるまい』とのんきに構えていました。
 ところが、紙が返ってきたのはだいぶ経ってからのこと。
 しかも、『手から手へと読み回され、そのつど書き写されてきたかのような、手垢で汚れ切ったものになり果てていた』のでした。
 つまり、書いてはひとりでニヤニヤしていたものが、知らないところでオンライブクマの上位にランクインしていたようなものですから、きっと戦慄が走ったことでしょう。

 清少納言の目線で平安絵巻を覗くというのは、夢書きの端くれである私にとってとても面白いものでした。
 それに、男性人気なら江戸時代、女性人気なら平安時代と言われるくらいですから、物語の背景も肌に合ったのだと思います。
 何より、読めば読むほど健気で忠誠心のある清少納言が愛しく思えるのです。
 歴史音痴な私がまさか歴史上の人物を好きになる日が来るとはゆめにも思いませんでした。
 それはきっと、原作リスペクトというか、モデルである清少納言を敬意や愛情を持って描ける冲方さんのなせる業なのでしょう。
 初めて読んだ歴史フィクションが「はなとゆめ」でよかったと、心から思います。

 余談ですが、うっかり手を滑らせて本を落とした際、文庫のカバーがはずれてしまったことがあります。
 すると、そこで思いもよらないことが! なんとカバー裏面に掌編小説が載っているではありませんか。
 作中でも、詠んだ和歌に草花を添えたりして「平安の人は気遣いが細やかだなぁ」と思っていただけに、この趣向には思わず「雅!」と感嘆してしまいました。
 もし本を落とさなかったら、きっと気づかなかったと思います。
 この時代ならではの演出で、どこまでも奥ゆかしいと感じました。
 今度は、紫式部の目線で平安旅行をしてみたいものです。

【感想】月読

 美しい表紙と題名だなぁと思い、購入しました。けっこう分厚いです。

 もともと読むのが遅いうえ、書き方を意識しながら読んでいたので、手を付けてから1か月くらい経ってしまいました(ノAヽ)

 ミステリをぶつ切りで読むのはよくないですね。せっかく張られた序盤の伏線も最後のほうには忘れていることが多かったです。

 ちょっともったいないなぁ、と思いつつ以下ネタバレありの感想(辛口)です。

 

 まず挙げるべきは、独特な世界観。このお話には月導(つきしるべ)という人の死後に現れる超常現象が存在し、それを読み解くのが月読(つくよみ)という職業の人たちです。たいていそういった特殊能力を持つ人は人口も少なくて、例に漏れず月読もまた特別視される存在です。

 けれど、ファンタジー色はそこまで強くなくて、上記であげた設定以外は現代日本とほぼ変わりません。月読自体も世俗化していて、“葬式なんかだと、いつも同じように『月読によりますと故人は生前の皆様のお心遣いに深く深く感謝の念を抱き』とか”(54ページ)の挨拶がなされるほど、日常生活に馴染んでいます。特殊なお坊さんって位置づけですかね。月導を読んでほしいと依頼するときもお布施ならぬ読み代(よみしろ)で五十万払わないといけないし。

 しかも月導で読み取れる意味が神秘的な美しいものや、大切な人を想う愛しいものばかりでなく、“障子紙が破れている”(117ページ)といった“特別でないもの”が例示されたのも現実味があってよかったです。

 そうやって特殊設定を現代社会に溶け込ませる手法はお見事でした。文章だけでイチからファンタジー満載にすると、説明ばかりで私の想像力がついていかないので、舞台が身近だったのはとっつきやすかったです。

 もうひとつ親しみを感じる要因に、文の端的さが挙げられます。特に「 」後の一文。“河井が訊いた”(316ページ)とか、“克己は立ち上がった”(332ページ)とか、全体的に短い文をもってきています。こうすることで誰のセリフか一発で分かるし、テンポを上げるのにも一役買ってるんですよね。

 私なんかはあれもこれも症候群で詩的な表現を求めてコテコテにしちゃうんで勉強になります。“良作は大きく表現しようとしない”みたいなことを王様のブランチでも言ってたし、シンプルって大事だなぁと確認させられました。

 そして今回も犯人の予想惨敗(;へ:)伏線をひとつも見破れませんでした。悔しい!笑

 登場人物が多いと頭パンクしますよね。加えて、この作品は二人主人公の構成をとっていて、めちゃくちゃ場転します。情報を整理させたり、気づく隙を与えまいとわざとやってるんじゃないかってくらい。もしそれが狙いだとしたら、ミステリ作家おそるべし、って感じですが、個人的にはあまり好きになれない構成でした。漫画や映画など絵のある媒体なら大いに盛り上がりますが、小説となると統一感に欠ける気がします。

 というのも、河井寿充という一匹狼な刑事と、絹来克己という男子高校生の二人の視点を行ったり来たりする構成は、飽きないといえば飽きないですが、主人公たちの感情の変化や成長を実感しにくいように思うのです。

 しかもこの二人、同一事件に巻き込まれてはいるものの、仲間でもなんでもないので余計にそう思ったのかもしれません。物語中はほぼ別行動をとっていて干渉し合わないため、犯人が分かるクライマックス周辺は特に場転が激しかったです。

 そうしないと一方の主人公が置いてけぼりになってしまうから、という理屈はわかりますが二人主人公の構成の話は大事なところで一方に専念できないのがつらいですね。

 

 クライマックスの伏線回収はミステリ作品らしく型にはまっていました。しかし、ぶつ切りに読んだせいでいまいちしっくりこないというのが本音です。ただ、

“三人以上の人間が同時に死んだときには明確な形での月導は出現しない”(464ページ)

 という設定から、じつは大量殺人の予定だったと月読である朔夜が暴いたのは熱い展開だったと思います。何を根拠に、と反論する犯人に「それは私が、月読だからです」(463ページ)と言い放った朔夜、かっこよかったです。

 惜しむらくは、“3人以上の人間が同時に死んだとき”という設定のとってつけた感。超常現象に具体的な数字が入るとちょっと温度冷めちゃいますね。

 

 そのほか、犯人の動機は文春文庫らしくエロスと愛憎を絡めたもので、読者の意表をつく斬新さがあります。物語の序盤から行方不明だった朔夜の父親が最後の最後で登場したことも、犯人とどう関係していたかも、あっけにとられる展開でした。黒づくめの服装をしていたことから、「この人も月読かな」という予想は我ながらいい線いってたけど、まさか父親とは想像つきませんでした。

 しかも、その朔夜に双子がいたことも予想外でした。唐突だったんで「どっから湧いてきたんだ」と思いましたが、見落としてるだけでちゃんと伏線が用意されてるんですよねェ。焙じ茶のシーンなんて完全スルーでした。これが匠の技かぁ、悔しい~。

 

 なんだか辛口で綴ってしまいましたが、ミステリ作品のいいところは読み返しで味が変わるところにあります。少し寝かせてから再読すれば、180度違う感想になるかもしれません。そのときはぜひ、ぶつ切りせず一気読みしたいと思いました。